全国盲ろう教育研究会 第2回研究協議会報告

 2004年8月18日から20日まで、独立行政法人国立特殊教育総合研究所にて全国盲ろう
教育研究会 第2回定期総会・研究協議会を開催致しました。21の都府県から80名(盲ろう
児生、ボランティア、通訳者を除く)の方に参加いただき、活気あふれる充実した研究協議を行
いました。以下に、研究協議会のご報告を致します。

〔8月18日〕
実践報告 
「児童の興味・関心から始める教育活動」 筑波大学附属盲学校 星 祐子
盲ろう児童M児の小学校5・6年生の2年間の実践について、M児の興味・関心の高い鉄道を
切り口にして学習の内容を組み立て概念形成を図っていったこと、歴史的な認識をふくらませ
ていったこと等について報告がありました。
 (詳細については、盲ろう教育研究紀要第7号に掲載予定です。)

活動紹介
1.盲ろうの子と家族の会「ふうわ」    
 私たち盲ろうの子と家族の会「ふうわ」の会は、全国に散らばっている盲ろうの子の家族間で
情報のネットワークをつくりたい、そんな気持ちから、2003年8月23日の集いにて、盲ろうの
子とその家族の会「ふうわ」を設立しました。"ふんわり、ふわふわ、のんびり、のびのび、本人
だけでなく、兄弟姉妹、家族が情報・意見交換したり、相互交流を深めること"を目的としてい
ます。「ふうわ」って変わった名前だね?どういう意味があるんですか?ときかれますが、この
あたりからネーミングされています。
現在(2004年8月現在)盲ろうの子の家族は52家族(正会員)です。そして、賛助会員(団体
賛助会員も含める)は、130名を超えました。

正式設立後の活動
1.メーリングリスト参加による家族間の情報・意見交換
設立前からのメーリングリストを継続し、新たな会員の登録もあり、現在、33家族が参加して
います。
2.年1回夏の集いを開催する。
   盲ろうの子、親(保護者)、兄弟姉妹などの家族間、及び療育・教育関係者、福祉関係者、
協力者などの交流と親睦を図ることを目的としています。昨年、今年と横浜で集いを開催しまし
た。
それぞれの家族のがんばりを見たり、聞いたりすることで、刺激を受けたり、反省させられた
り。そして何よりも一人ではない、みんな各地で頑張って居るんだから、また一年頑張ろうと勇
気やがんばりの種をもらう集いです。
3.会報の発行
会報(年3〜4回の予定)を発行し、会員(正会員、賛助会員)相互の情報交換や情報提供を図
ります。設立以来、9月に創刊号、12月に第2号、5月に第3号を発行しました。
4.リーフレット作成
改訂版の発行を予定しています。今後も関係諸機関へ配布して理解を求めると共に、まだま
だ各地域にいるであろう盲ろうの子の発掘を行って、仲間を増やしていきたいと思っています。
5.盲ろう教育に関しての改善要求
  会として、盲ろう教育の改善を図っていきます。2003年10月、文部科学省に教員の盲ろ
う教育に関する教員研修の実施と盲ろう教育機関(教室)の配置を要望した要望書を提出しま
した。

2.CHARGEの会         
 「CHARGEの会」は、CHARGE連合と診断された子供とその家族の出会いと情報交換を目
的とした会です。1997年に名古屋在住の松村久美子氏(現在も会の代表者です)の呼びか
けで、患者家族5組で会が発足しました。現在、患者家族会員数は70組程、賛助会員は約3
0組です。CHARGE連合は稀少疾患であり、日本においては、まだまだ情報が不足していま
す。患者家族は全国に点在し、非常に孤立した環境で、次々に生じる困難と闘っています。C
HARGE連合の子供達とその家族がネットワークを組むことで活発に情報交換し、仲間がいる
ことを確認し励まし合い、それぞれの地域で前向きに子供を育む事が出来たらと考えていま
す。
 「CHARGEの会」の活動は、主に会報の発行・集いの開催・HP上での情報交換・交換ノート
などがあります。また、会員名簿を手がかりに同じ年頃・似た症状や同じ地域の方々で、情報
交換も随時行われています。
 会報は年に2.3度発行されます。
集いは、2001年8月に第一回「CHARGE夏の集い」を愛知県江南市での開催を皮切りに現
在まで4回行われました。(本研究協議会後、5回目の集いが滋賀県で開催されました)会員
の増加に伴い、集いへの参加者も年々増えています。
 HPは昨年開設しました。最近の新会員の殆どの方が、HPから「CHARGEの会」の存在を
知り入会されます。会員に限り閲覧することのできる「会員専用掲示板」は、連絡事項の伝
達、様々な情報交換、子育ての悩みなどを語り合い、いつも賑わっています。
 交換ノートは、PCを利用しない会員の方はもとより、写真を沢山貼ったり長い文章が書けた
りとネット上にはない趣があり、多くの利用者がいます。

〔8月19日〕
ポスターセッション
20のポスターがだされました。
(盲ろう教育研究紀要 第7号に掲載予定です)
分科会
 7分科会に分かれ、協議を行いました。以下、分科会の協議内容です。
1.乳幼児期
 初めて顔をあわせた方が多く、最初に簡単な自己紹介を行いました。参加者は、盲ろう乳幼
児を担当している教員が多く、これまで長年盲ろう児を育ててきたみやこ園の伊藤先生にアド
バイスをいただきながら進めました。
 まず、お母さん方への支援の在り方について話し合いが進められました。お母さん方が盲ろ
う児を育てていく事に少しでも意欲を持ち、気持ちを楽にして育児ができるためには教員側か
らの支援が求められることが確認されました。特に話し合いの中で、教員側として心がけなけ
ればならないこととして、
 @教員がお母さん達の話しをしっかりと受けとめて聞くことがまず大事で、一番に良き聞き役
になることが求められる。
 Aお母さんが相談に行ったときに、学校が支援機関としてほっと出来る場所として存在する
ことがまず必要である。そのための教員側の細かい配慮が必要である。
 B教員の方で情報を集め、全国レベルで同じ障害児をもったお母さん同士の仲間作りを積
極的に支援していくことが大切である。直接会える仲間がいることが大事だが、インターネット
を通してメールだけでもお母さん同士がつながっていける情報源を用意しておくことが必要であ
る。
といったことが、確認されました。
 次に子どもとのコミュニケーションについて話し合いを進めました。特にコミュニケーションを
これから育てていかなければならない乳幼児とのコミュニケーションをどう成立させていくの
か、またどう分かり合うことが出来るのかについて話し合いました。
話し合いの中で、子どもと伝わりあうには、まず子どもの要求が生活の中でわかることが大事
であることが出されました。参加者から具体的な食事や遊びの場面を出し合い、確認したり、
それぞれの立場からアドバイスをしあいました。具体的には、特に食べ物に関しては子どもか
らの要求が出やすく、「食べたい」、「飲みたい」と言う要求を、「こっちが欲しい」、「これはいら
ない」等広げていくことが出来ることが出されました。また、子どもの行動をよく見ていると、子
どもなりのサイン(泣く、機嫌がよい、安心している、不安に思っている、声を真似る等)が出て
いて、それをきっかけにコミュニケーションが出来ることも話し合われました。
 盲学校と聾学校の先生が集まっていたため、お互いの経験から視覚・聴覚に障害があって
も、その視覚・聴覚を最大限に活かすための働きかけにより、子どもたちが生活の中で視覚
聴覚を活用できることがお互いに学べました。
 伊藤先生からは話し合いの中で適宜アドバイスをいただき、また指導について書かれたレポ
ートもいただき大いに参考になりました。
話し合いの途中で休憩を取りましたが、それぞれが近くの人とグループになり、子どもの話題
を出し合って交流をしあい、休憩の時間も惜しむような感じでした。

2.学齢期
(1)盲ろう児の教育の場について
保護者の方から、どういった思いで就学・進学時に学校を選択したのか、また、現在の様子に
ついての話題が提供されると共に、盲・聾・養護学校それぞれの学校の中での盲ろう教育の
様子について出し合いました。そして、すべてが備わっている学校がない故に学校間での連携
を取り合っていくことの大切さや、担任が変わったときのエピソードが紹介される中で同じ学校
の中でさえも連携が十分にとれていない現状が指摘されました。その中で、愛媛からは、盲学
校・聾学校に2名ずつ盲ろう児生が在籍している現状を踏まえ、「今在籍している学校でよりよ
い条件を整えていく」ために盲学校と聾学校の情報交換会をはじめ、聴覚活用に関するサポ
ート、触覚教材の貸し出しなどの連携を取り始めたこと、さらに奈良からは、聾学校で手引き
の仕方についての研修会を設定したことがそれぞれ報告されました。
(2)盲ろう教育について
保護者の方から、「盲ろう児への教育・教材は、他の障害の児童・生徒にも応用が利くことでは
ないか」、「実体験を大事にしていくことやコミュニケーションをはぐくんでいくための関係づくり
などは普遍的なものなのでは」といった意見や「『本当にわかる』『本当の理解』をどう積み重ね
ていくかが大事なのではないか」といった声が出されました。また、盲ろうの子は「待つ」ことが
多いが、「"何で"待つのかを伝えてほしい」、「盲学校は声かけにたよりすぎていてサインを出
さないのでは」、「きめ細やかな情報提供をしてほしい」といった要望も出されました。
そして、「何のために学ぶのかというと、生活を豊かにしていく、自分の世界を広げていくため
に学んでいくのではないか」といった保護者の方の声に参加者皆で深く頷き合い、盲ろう児を
中心に関係者皆が力を合わせ、よりよい教育を創造していくことを確認し、分科会を終えまし
た。
                        
3.成人期
 成人期の盲ろう者支援に携わるさまざまな立場からの参加があり、充実した意見交換・情報
交換の場となりました。次のような話題が出されました。

(1)就労とコミュニケーション
理療教育の現場では、あんま・針・灸の免許をとることのみに重点をおく傾向がある。中途で
盲ろうとなった人の場合、客や患者と十分にコミュニケーションをとるすべがないままに免許だ
けをとっても、実際の就労には困難が大きい。能力は高くても、コミュニケーションがネックとな
って働く機会が制限されることもある。
(2)盲ろう者に対する通訳介助者の利用
盲ろう者に対する通訳介助者の派遣事業は、現在28都道府県・政令指定都市で実施されて
いるが、各地方自治体によって制度はばらばらである。時間数に制限がある場合や、恒常的
なもの・営利目的には派遣ができない場合がある。通訳介助者がいれば十分に働く能力があ
るのに、「営利目的である」という理由で通学・通勤には派遣を利用できないという現状は、問
題がある。
(3)就労の現状と働く場の拡大
日本では、就労している盲ろう者は少ない。また、ごく少数の人を除いては、職業としてあんま・
針・灸以外の選択肢が少ないのが現状である。働く場を拡大し、盲ろう者の能力を社会に還元
していくためにはどうすればいいのかが、今後の課題である。
(4)コミュニケーション手段の確保
視覚障害や聴覚障害が進行性である場合、今は使えているコミュニケーション手段が将来は
使えなくなる場合もある。本人が日に日に落ち込んでいったり、外とのやりとりをあきらめて閉
じこもってしまう場合、コミュニケーションを保障するためにどのようにかかわればいいか、現
場では悩んでいる。
(5)ピアカウンセリング
ピアカウンセリングは、本来健常者が立ち入らないものであるが、通訳なしには難しい場合が
ある。ろう者が通訳として入るなどの方法もあるだろう。
(6)盲ろう者中心の「連携」が必要
教育・保健・福祉・行政などの連携が大切であることはもちろんだが、関係機関の立場だけで
連携を問題にしがちである。本来、連携の中心は障害者自身であることを忘れてはならない。
(7)成人期はあくまでも一つの段階
成人期というのはあくまでも人生の連続した時間軸のなかの一段階である。子どものときから
将来どんな大人になるかを考えてかかわっていくことが大切である。
                        
4.コミュニケーション
参加者…学校教員、施設等職員、盲ろう児保護者 計13名
全員が、盲ろう児者との係わりとコミュニケーションに関する考えや悩みを出し合いました。次
のような事項が話し合われました。
(1)手足の不自由な盲ろう児が、自分の周囲の人や物をどのように認識するのか。手助けの
方法は。
触覚が良い情報源になる。品物をおでこに乗せるなどして提案する。足や体幹も受容器として
活用する。反り返る先に玩具を置くなど、わずかな動きで本人が発見できるように。本人が次
の動きを予想できる遊び。振動で人の接近や人がいることを伝える。においや風なども活用で
きる。
(2)興味を持つものが少なく、人と人の関係ができていないと感じることのある盲ろう児の興味
関心を広げるには。
興味を引き出すのに、選択場面を用意する。あえて先に、興味関心の薄いほうを示し、次に欲
しいものを示すことで、NOをはっきりすることも良いのでは。
(3)アッシャーで中途失明し、施設に入所した。失明前は手話を使っていたが、手話のできる
職員もおらず、以後17年間、心を閉ざし自分のリズムで生活している盲ろう者がいる。手話を
拒否し、点字の導入も拒否された方のコミュニケーションをどうするか。楽しめる活動はない
か。医療に関するコミュニケーションはどうしたらよいか。
関連で余暇活動の実際を他施設に質問した。散歩、折り紙、トイレットペーパーたぐり、一日寝
ている、新聞を刻む、点字を打つ、作業などいろいろである。その人が見つけた小さな楽しみ
や昔の趣味などが利用できるのでは。
医療に関することは、本人のプライドがあったり、食事療法などのように説明が難しいことが多
い。施設でできることは益々少なくなっている。病院に入院させ、任せてしまう場合が多い。
コミュニケーションは、昔使っていた手話の活用が優先されるのではないか。失明という事態で
「手話」をあきらめてしまっているのではないか。閉ざしている心を開放しながら触手話の導入
を。また、係わる複数の職員がノートを見てその方に話しかけることができないか。等々。

外界の人や物を認識し、興味関心行動を拡げながら盲ろう児とのコミュニケーションを成立さ
せること、また、盲ろう者の生活と生き方を支えるコミュニケーションなど、対象者の年齢と幅
広い関連領域について意見交換を行いました。(3)については問題が大きく、翌日、分科会参
加者以外の方々のご意見を伺う機会を用意しました。

5.生活・余暇
様々な立場からの出席者で、関わっている盲ろう者の年齢にも幅があり、内容は多岐に渡りま
した。「卒業後の生活」、「レクリエーション・ゲーム」が主なテーマになりました。
 卒業後の生活については、高等部卒業を控えた肢体不自由もある盲ろう児の事例から展開
していきました。卒業後の進路として、ぴったりくる施設がない。盲ろう障害のための施設がな
い今何を基準に選んだらいいのだろうか、という悩みに対して、施設の主としている障害で判
断するのではなく、その子ども自身をみ てくれる所がいいのではないか?という意見や卒業
後、施設への情報伝達がうまくいかないという話に対しては、サポートブックを作ったらいいの
ではない か、という意見が出されました。
 「レク・ゲーム」についての話し合いでは、具体的な例が出ましたので紹介します。
山手線ゲーム、触るジャンケン、椅子とりゲーム(太鼓が止まった時、椅子にのせた風船を割
る)、色々な長さに切ったビニール紐をくじ引きのようにして引いていき、結んでいって一番長
かったチームの勝ち、というゲーム、カードに書かれた文字と同じ模型を探す、新聞破り(新聞
の端と端を持ち、同時に引っ張り大きい面積を破った方が勝ち)、ペットボトル(ビー玉を入れ
る)を使ったボーリング、オセロ、箱の中の物を当てるゲーム等が挙げられました。
 余暇の楽しみが少ないといわれる盲ろう者だが、案外身近な所に楽しめる材料は落ちている
ようです。どんなゲームをするかということだけでなく、状況説明の大切さについても挙げられ
ました。道具もコントラストの高い物を意識して使うだけで楽しめるようになること、高齢の方だ
とゲームに参加しない人もいますが、状況説明をすればその場を楽しむことができること、コミ
ュニケーションのためには合っているエイドが必要であることやフィッティングの重要さについて
も話し合われました。寄宿舎に入っている盲ろう児はゲームではないが友達とのおしゃべりを
楽しんでいるようだ、という発言に対し、施設入所で高齢の盲ろう者の悩みはおしゃべりできる
相手がいないことだという話が出され、盲ろう者にとってのおしゃべりの重要性を再認識させら
れました。
 この分科会では、情報補償としてOHPによる要約筆記、FM補聴器の使用、手話通訳が行わ
れました。生の情報補償を見て意見交換した点でも、有意義な分科会になったと思います。
                          
6.教科学習
 (1)盲ろう児に対する教科の具体的な指導について
・音楽:盲ろう児にとっての音楽とは何かという話題から始まり、ろう学校における聴覚障害児
に対する音楽指導の様子を交えながら,盲ろう児が音楽を学習することについての考え方や
方法に関する意見交換がなされました。その中で,在籍する盲ろう児のニーズや課題が異なっ
ていることもあり,学校ごとに様々な取り組みがなされていることが確認されました。盲ろう児に
とって楽しく意味のある音楽の学習を目指す中で,それぞれの学校で工夫している点などを出
し合いお互いの認識を深めることができました。
・算数・数学: 盲ろう児が数概念を形成するための指導について、また、数を操作する際にど
のような工夫をしているのか意見交換をしました。その中で,そろばんや筆算などを身につけ
ていくその前の段階として,生活に基づく十分な経験が必要であるということ。お金が物に変わ
る経験や,1円玉が10枚で10円玉1枚になるということを繰り返し経験しながら,やがて概念
へとつながり数の意味を捉えるための素地となること。その素地とそろばんや数字や式を結び
つけながら学習していくこと等,積極的に意見交換がなされました。それぞれの盲ろう児にとっ
て課題は様々であるが,その子どもにフィットした方法を探して,家庭と学校などが連携しなが
ら学習を深められるようにしていくことの重要性が確認されました。
 (2)指導の体制,カリキュラムについて
 各学校での指導の体制やカリキュラム作りに関して情報が交換されました。指導体制で最も
課題となることは,小学部から中学部へ移行すると教科担任制となることで教科間の連携が
重要になるが,実際難しい点もあるということが挙げられました。状況は,学校によりコミュニ
ケーションの可能な教員がどの教科にも入る場合,通訳介助を依頼する場合,担任がある程
度授業を担当する場合など様々で,盲ろう児が在籍する学校,学級などの要因もあることがお
互いに認識されました。それにともないカリキュラム編成や,修業年限,進学など困難な状況
でそれぞれ試行錯誤していることが報告されました。
 
 盲ろう児の教科学習では,子どもの概念を育て結びつけていくことと,コミュニケーションや文
字の問題の克服が大きな課題であるということが明らかになりました。盲学校やろう学校での
それぞれの取り組みや,保護者の観点からの意見などが活発に出され,有意義な協議となり
ました。今後はさらに学校間の連携や,教員の研修体制を充実させていくことの重要性が認識
されました。

7.盲ろう児者を初めて担当したあなたへ
全員がそれぞれ担当している盲ろう児者について、現在主として直面している課題について紹
介しました。受け持っている盲ろう児者は多様でした。盲ろうとなった原因としては、CHARGE
症候群、先天性風疹症候群、低体重出産、不明等でした。視覚と聴覚の状態については、弱
視難聴、弱視ろう、盲難聴、全盲ろうがあり、知的障害や運動障害を併せ有するケースと盲ろ
うのみのケースがありました。年齢も、小学部、中学部、高等部、学校を卒業した成人と、幅が
広かったです。しかし、このような多様性にもかかわらず、いくつか共通する課題が見いださ
れ、各地の工夫などが出され活発な情報交換がなされました。中でも、以下の2点に焦点が多
く当てられました。
1コミュニケーション方法の発達的な視点による選択
2担当盲ろう児についての情報および方針をどう複数の職員間で共有するか
コミュニケーションについては、たまたま2名の参加者が実際に使っているカードや実物を持参
して、それぞれの現場での課題について紹介しました。子どもの発達に応じたコミュニケーショ
ン方法の選択について情報交換を行うと同時に、子どもに適した方法が持ち運び等の負担が
ある場合は多くの教員に共有してもらえない問題があり、その課題についても話し合いが行わ
れました。
複数の教員間の情報や方針の共有方法について、具体的な実践例が紹介されました。ある
学校の中学部では、当該盲ろう児に関わる全教科の教員が毎週一回集まり、情報を共有して
いること、また、ある学校の高等部では、一日の日課を具体物で表すスケジュールボックスを
使い、各教科の教員が必ずそのスケジュールボックスから授業を開始することで、共有すべき
コミュニケーション方法や方針の確認がしやすいようにしていることが紹介されました。
 
〔8月20日〕
盲ろうもろもろ語る会
 前日のアンケートで、要望事項を尋ねたところ、コミュニケーション獲得までのプロセスにつ
いて、言葉の概念・数の概念・時間の概念の育て方の具体的な取り組み方法、放課後の子供
たちの過ごし方、学校や施設での取り組み、盲ろう手引き方法について、盲学校教員の聴覚
障害についての理解や情報収集法・聾学校教員の視覚障害についての理解や情報収集法な
ど多岐にわたりました。そして、実際に20名ほどでテーブルを囲んだところで、改めて要望を
尋ねたところ、「ある成人施設に入所している方について、昨日のコミュニケーションの分科会
でも話し合われたが、皆で考えたい」との提案がなされ、「盲ろうもろもろ語る会」では、盲ろう
成人の方についてとコミュニケーション獲得という2点に絞って語り合うことにしました。
(1)施設入所の盲ろう成人の方について
 成人施設に17年入所している成人の方の日常生活の様子(コミュニケーションをとることな
く、ほとんど座ったままで一日過ごしている)について指導員の方から話がされました。それを
受け、様々な立場の方から「その方と通じ合えるもの、わかりあえるものがあればいいです
ね」、「一日のある時間、ずっと側にいるといった取り組みはどうだろうか、何か発信してくれる
のでは」、「コミュニケーション方法等を学齢段階で断ち切らせないように、次の場に伝えていく
ことが大切なこと」といった多方面からの意見が出されました。
(2)コミュニケーション獲得等について
 保護者の方が4名参加されていたので、それぞれのお子さんの現在までの様子やご苦労な
どを語っていただき、その中で概念の形成・コミュニケーション獲得などについても触れていた
だきましたが、次のような話が出されました。
・右の甲をたたくと、スプーンを持つようになった。
・とにかく、触ることをたくさんした。遊びながら・・・。
・小学1年の時に、夏休みに日にちの数だけパックを用意して、楽しかったものを入れていっ
た。
・レモンを食べて、『酸っぱい』という手話を教えた。
・肢体不自由があるので、まずは体づくり・歩行を第一義に考えてきたが、人との関わりが大
切だなと感じている。
・「いや」という時は、手を引っ込める、げんこつにする。
・自分から要求を出してくれるようになってほしい。
・コミュニケーションは、「○○したい」、「○○はいや」という気持ちを把握することから、子ども
と向き合うことから出発する。食べたいものを「食べたい」といえる子にしたい!というのが出発
点。技術は後からついてくる。
・本人が訴えなければ、○○がもらえないという状況をつくり出すことは大切、何でも与えれ
ば、無表情で、訴えなくなってしまう。就学前、子どもとわかりあえなくて、泣いたことがある、そ
の時、強烈にわかりあいたいな、思いを表現させたいと思った。コミュニケーションはそこか
ら。 こうした保護者の方の話に耳を傾けながら、共に涙し、喜び合いました。

 盲ろう擬似体験
参加者は盲学校、聾学校、養護学校、研究機関の方たちでした。疑似体験への希望として
は、「盲ろうについての一般的な疑似体験」、「自ら担当している盲ろうの子どもの見え方をより
理解するための疑似体験」、「地元に戻ってから他の教員にも盲ろう疑似体験を実施したいの
でその方法を知りたい」という3点に集約されました。時間の制限があるため、一般的な全盲ろ
うの疑似体験は後半の短時間に実施し、前半のより長い時間を担当している盲ろうの子ども
の視力を簡便な方法でシミュレートする疑似体験を行いました。地元に戻って疑似体験を行う
場合、高価な弱視疑似体験レンズは入手が困難なため、安価で入手が容易な半透明のプラ
スチックフィルムを複数重ねたものを使用しました。その枚数を調整して、近見用視標をつか
って各自が担当する子どもの視力値に近づけた弱視疑似体験マスクを作成しました。体験内
容は、日頃子どもが行っている活動や移動を追体験する形で実施しました。

子供たちの活動の様子
全国盲ろう教育研究会が、現在を生きている子ども達の可能性を広げ、豊かなコミュニケーシ
ョンを育むことを大切にしているからこそ、この研究会に参加した子ども達が"子ども達も"では
なく、"子ども達が"楽しめる、楽しく参加できる活動を組むことを何よりも優先しました。参加メ
ンバーは2歳のYくん、小学1年のHくん、5年のMくん、6年のRさん、中学1年のAくん、高校1
年のDくん。コミュニケーション方法は子どもの数だけあります。興味・関心も、確かめ方も、味
わい方も、子どもの数だけ存在します。
初日は研究所という"新しい場所に慣れる"と言う意味から研究所内で遊びました。研究棟の
室内トランポリンやスヌーズレンでのリラックス。一汗かいてからかき氷のおやつとなりました。
大きな氷の塊と格闘し、容器にいっぱいのかき氷をみんなでほおばりました。味覚で、口で、て
のひらで、ほっぺたで!総会の流れにあわせ、自己紹介の時間帯には子ども達全員が会場で
各自の自己紹介を行いました。マイクを握りしめるHくん、手話の読みとり通訳を受けるAくん、
舞台にのぼるRさん。
二日目は午前中に研究所の前に広がる浜に出て釣りを楽しみました。「お昼ごはんを釣るぞ」
の意気込みで竿を投げましたが、強風にあおられ、すぐに糸がからまってしまいます。潮風に
吹かれながらの収穫物はかろうじてワカメが数本。午後からは、「はなの国のプール」へ出か
けました。
最終日には京浜急行とバスに乗り、三崎港までマグロを食べに行きました。電車とバスの振動
におおはしゃぎのYちゃんとDくん。漁業組合の食堂で筋骨たくましい海の男にまじってマグロ
を味わいました。刺身、煮付け、揚げ物と、日頃は魚を口にしないというMくんもおかわりをして
いました。閉会式には間に合わなかったので、携帯メールでの実況中継で勘弁してもらいまし
た。
子ども達の活動を支えるために多くの方々の協力を得ました。初めて"盲ろう"の子ども達に出
会った方々との多くの出会いがありました。子ども達の生活の豊かさは関わる人間の手の数
に比例すると思います。改めて感謝します。