アピール「盲ろう児・者の教育・福祉の充実を目指して」の公表について
 当研究会では、第20回という節目である今年度の研究協議会(2022年8月6日開催)におい
て、今日までの盲ろう教育に関する取組の成果を共有するとともに、教育関係者、保護者、教
育行政関係者等、様々な立場の方からの問題意識や提言等を通して、盲ろう教育の今後の
取組の課題を検討・共有しました。
 これらを踏まえて、当研究会として「盲ろう児・者の教育・福祉の充実を目指して」と題するア
ピール文を作成・公表し、諸団体と連携しながら、盲ろう児・者の教育・福祉の充実のために
様々な取組を一層進めていきます。併せて、療育・福祉・医療・行政等関係する諸機関に必要
な働きかけを行っていきたいと思います。
つきましては、以下のアピール文をお読みいただき、具体的な取組について、ご提案やご意見
等をお持ちの方は、下記メールアドレスまでお願いいたします。
全国盲ろう教育研究会事務局 mouroujimukyoku@gmail.com

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盲ろう児・者の教育・福祉の充実を目指して(アピール)
2022年9月20日全国盲ろう教育研究会

 全国盲ろう教育研究会は、視覚と聴覚の両方に障害を併せ有する盲ろう児・者の教育及び
福祉に関わる多様な事柄を研究し、その向上に寄与することを目的として2003年に発足した
我が国で初めての盲ろう教育に係る全国的な研究会です。発足来、今日まで盲ろう教育に関
わる学校の教職員だけではなく、盲ろう当事者、盲ろう児・者の家族、研究者、療育・福祉・医
療等関係する諸機関や諸団体のみなさま等、様々な立場の方々のご協力とご支援の下、研
究協議会やホームページを活用した情報発信等、多様な活動を通して、盲ろう児・者の教育及
び福祉の向上に努めてきました。
 そして、研究協議会や研究紀要等を通して、全国各地で積み重ねられてきた教育実践や研
究の報告を行い、新しい試みを分かち合い、交流する中で、盲ろう児・者の教育において大切
にしたいことを以下のとおり確認してきました。

1.安心できる関係づくりを大切にすること
2.子どもの全体像を把握すること、見え方、聞こえ方の様子を観察・把握し、必要な手立て、
配慮をすること
3.子どもの障害や発達の様子、興味関心、課題、ねがい等を踏まえて、中心的課題を明確
にし、系統的に指導していくこと
4.得られる情報が限られ、絶対的な経験の乏しさを踏まえて、概念形成の基盤となる実際の
体験を大事にし、積み上げていくこと
5.子どもにあった情報の提示の仕方や関わりの方法を選ぶこと、子どもからの発信の方法を
工夫すること、その中で、双方向でのやりとり、コミュニケーションを育むこと
6.子どもにとって、「意味のある」興味関心のあることを学習につなげ、主体的な学びを創り
出していくこと
7.子どもにとってわかりやすい活動を意図的に創っていくこと、教材教具を工夫すること
8.保護者はもちろんのこと、医療・福祉・行政等、関係する機関との連携を大切にしていくこと
9.学齢期の学びが卒業後の生活に繋がっていくようにすること
10.学び続ける、成長し続ける視点をもつこと

 そして、第20回という節目になった今年度の研究協議会では、今日までの盲ろう教育の成
果を、教育実践報告や各地の取組を通して共有するとともに、教育関係者、保護者、教育行
政関係者等、様々な立場の方からの問題意識や提言等を通して、盲ろう教育の今後の取組
の課題を検討・共有しました。以下に、重点的に取り組むべき課題を列挙します。

1.盲ろう児・者やその保護者に対する成長段階における育児・就学・進学・就労等の相談支
援体制の充実
盲ろう児を持つ保護者は、我が子の成長に不安や養育に関する様々な悩みを持っています。
就学前や就学期だけでなく、就労期に至るまで、それぞれに直面する問題の解決に必要な情
報や支援を求めています。盲ろう児・者やその保護者に対する、生涯にわたる相談や支援の
組織及び体制整備が必要です。

2.盲ろう児やその保護者相互の情報提供や情報交換の場及びシステムの充実
盲ろう児を持つ保護者の会としては、全国唯一の組織となる「ふうわ(2003年発足)」がありま
す。しかしながら、こうした会の存在はあまり知られておらず、保護者が求める情報がなかなか
届かないといった問題があります。
子どもが盲ろうであることがわかったら、できるだけ早く、各地の特別支援学校の教育相談や
親の会に繋がって、地域にある医療・福祉・教育の資源や利用に必要な情報を得ることができ
るようなシステムを整備し、盲ろう児と家族を支えていく基盤をつくることが大切です。

3.盲ろう児の教育に携わる教職員の養成カリキュラムや研修システムの充実
盲ろう児の健やかな成長・発達のためには、盲ろう児教育に関する高い専門性を有する教職
員の関わりが大切です。しかし、実際には担当することとなった教職員の資質や熱意の有無
によって、盲ろう児の成長・発達が左右されることが多々あるのが実情です。盲ろう児教育に
携わる教職員の養成段階からのカリキュラムの開発やはじめて盲ろう児を担当する教職員向
けの研修システムを充実させる必要があります。このような養成や研修に関しては、学校教育
の場に限らず、盲ろう児・者に関わる様々な保育・支援・就労機関等の職員に対しても取り組
んでいくことが大切です。

4.盲ろう児の教育に携わる教職員に対する支援体制の充実
指導経験の無いあるいは少ない教職員が盲ろう児を指導することになった場合、盲ろう児に
対する実態把握(アセスメント)や指導計画の立案、コミュニケーション手段、教材・教具の作
成等について困難な場面が多々生じることが予想されます。指導経験の豊富な専門性の高い
教職員や研究者等の定期的な訪問・巡回による指導ポイントの教示や授業研究会などを通じ
た支援体制を充実することが喫緊の課題です。
 
5.盲ろう児の修学年限の柔軟かつ適切な運用
コミュニケーションと情報収集に大きな困難を有する盲ろう児の指導は、限られた情報をスモ
ールステップで積み上げていく必要があり、通常の修学期間では不十分と言えます。社会的背
景や教育システム等の違いを踏まえながら他国の取組を参考にして、個々の盲ろう児の特性
に応じた必要な修学期間の柔軟な設定とその運用体制の確立が望まれます。

6.盲ろう児の教育に必要な教材や指導法等の開発研究および共有システムの充実
  日常的な実践交流の機会を設け、指導の充実を図るとともに、これまで盲ろう児の指導にお
いて開発された教材や指導法等を指導に携わる教員が活用できるようデータベース等を充実
させ、なおかつそのデータベースの存在を周知する必要があります。

 これらの課題に対し、当研究会は、療育・福祉・医療・行政等関係する諸機関に必要な働き
かけをするとともに、親の会を始めとした諸団体と連携しながら、全国に点在する多様なニー
ズを有する盲ろう児・者の教育・福祉の向上に努めていきたいと思います。
折しも、国連本部で障害者権利委員会による日本における「障害者の権利に関する条約」の
履行に対する建設的対話に基づき、我が国における障害児・者の教育・福祉の更なる充実が
図られようとしている中で、当研究会として、アピール文を公表し、決意を新たにするもので
す。